農家がまとめる「食品ロス」2020
かながわSDGsパートナーズのオーガニック料理教室「ワクワクワーク」さん主催の
「世界一やさしいフードロス勉強会」で、代表の菅野のなさんとお話しさせて頂きました。そちらの資料がてらなブログです。
自分も含め、あまりに大きく複雑な問題を前に「なんとかしたい!」と思っても何をどうしたらいいのか分からずに気持ちがしぼんでしまう。
まあいいか、とスルーしてしまう。
そんな人が、ほんの小さなことでも良いので、思った事を行動にうつせるキッカケになれば嬉しい限りです。
世界では1/3の食べられる食品が廃棄されている現実と
もったいないという個人の感覚とのギャップ。
世界のいたるところにあるギャップを「食品ロス」というテーマで知る。
「食品ロス」は違う価値観を知って、思いやりを持って違うものと繋がることのできる今の私たちに与えられた課題なのではないかと仮定して、まとめていきます。
<食品ロス>とは
本来なら食べられるのに廃棄される食品のことを「食品ロス」と言います。
<いつから?>
「食べ物を大切にする」という感覚は誰にでもあると思います。
その感覚が、2015年秋の国連サミット・SDGs(エスディージーズ:持続可能な開発目標)での17のゴール(目標)のうち、12番目に「2030年までに世界の食料廃棄を半減する」というターゲットが掲げられ、世界的に明確な形になりました。
日本では2019年10月1日に「食品ロスの削減の推進に関する法律(略称:食品ロス削減推進法)が施工されました。
その主な内容は
・<国・地方自治体><事業者>の責務と、<消費者>の役割を取り決める
・10月を「食品ロス削減月間」とし、10月30日を「食品ロス削減の日」と定める
・理解ではなく行動を求める。多様な連携により「国民運動」として推進
日本が「食品ロス」問題にどう取り組んで行くか、大まかな方針が示されました。
<国・地方自治体><事業者>は「責務」
<消費者>の「役割」というのが、興味深いですね。
<食品ロスの数字と種類>
世界の食料廃棄量は年間約13億トン。人の消費のために生産された食料のおよそ1/3を廃棄しています。
(国連食糧農業機関(FAO)「世界の食料ロスと食料廃棄(2011年)」)
日本では年間643万トン*もの食品ロスが発生しています。これは世界で飢餓に苦しむ人々への食糧支援量約380万トン**に比べても1.7倍と非常に大きな数字となっています。
数字を見てもイマイチピンとこないので、なじみ深いご飯茶碗で換算。するとなんと!日本国民の全員が、毎日ご飯茶碗1杯分を捨てている量と同じになるとの事。そしてその廃棄コストは年間で2兆円にものぼるそうです。
*農林水産省「平成28年度推計」
**国連世界食糧計画「2017年実績」
食品ロスは大きく2種類に分けられます。
・事業系食品ロス(339万トン)
・家庭系食品ロス(282万トン)
農家は食糧を生産する事業者なので
食べて頂く皆さんよりも責任がある立場です。
私は食品ロスに関する情報を調べる時は
農林水産省のデータを見ることが多いです。
自身の取り組みが国の基本方針に沿っているか確認するためです。
食品ロスと実際の活動の繋がりがつかみにくい場合は
活動がどの省庁の管轄なのかを確認するのも良いと思います。
実際の実施された活動も参考になりますね。
<国・地方自治体>*
2018年に発足された協議会。
2019年10月時点で408の自治体が参加しています。
<大量廃棄から学んだ、あるまま農園の取り組み>
消費者の皆さんには想像しがたいかもしれませんが、農家の生産現場では日常的にあります。その現実を知ってもらいたくて、勉強会参加者の方には事前にこの記事を読んで感想をかいてもらいました。
岡山県の農業生産法人がタマネギ180トンを苦渋の選択で廃棄。農家の抱えるジレンマが分かりやすい記事です。
www.agrinews.co.jp
私たちあるまま農園も、キャベツ2000個を廃棄した経験があります。
所属している出荷グループでは「契約栽培」で野菜を卸しています。契約先との約束は「5月にキャベツを出荷する」でした。栽培は計画通り進めていましたが、その年は天候不順で5月には出荷サイズに育たず、6月にちょうど良い大きさになりましたが1個も買い取ってはもらえませんでした。6月は他の産地と契約しているので仕方がありません。約束を守れなかった野菜は、泣く泣く廃棄するしかありませんでした。
野菜が育たなかったのなら、まだ諦めもつく。でも、手間をかけて美味しく育った野菜がここにある。それなのに売れず、誰にも食べられず、自分たちの手で廃棄するってなんなんだろう。これは仕方がない事なのか。グループの先輩達もみんなそうしているし、これでやっていくしかないのか?となった時、とてつもなく悔しくて、このまま続けていい訳がないと心底思いました。
何が問題なのか考えた時「売る優先の約束」をしている事で、生産のロスが生じていると割とすぐにわかりました。それなら「作る優先の約束」をすればいい。あらかじめ野菜の種類や出荷の時期を限定しない、その時畑にある野菜を「おまかせ」で個人のお届けする野菜宅配を始めました。それが9年前のことでした。
「売る優先の約束」と「作る優先の約束」。どちらがいい悪いではなく、両方の約束をお客様と交わすことで、収穫できる野菜のロスを大幅に減らすことができました。とは言えまだまだ改善の余地はあり。今回の勉強会も然り、視野を広げて自分からも情報を出してどんどん取り組んでいきたい課題です。
<みなさんからの質問>
勉強会参加のみなさんから、野菜の規格に関してのご質問がありましたが、うちはJA(農業協同組合)とは取引がないので詳しくはわからず申し訳なかったです。
中にはドキッとする質問も。
あるまま農園さんは規格外野菜を販売されていると思いますが、それでも売れ残るもの、廃棄せざるを得ないものは、どのくらいありますか?
出荷する野菜の数は数えますが、捨てる野菜の数は数えたことがありませんでした。次の朝、畑で廃棄野菜の数を数えようとしましたが、腐敗が進みなんだかよくわからない状態になっており断念。食品ロスの数値化での把握の難しさを感じました。
消費者の方の気になる事を教えていただき「なるほど、納得」なものから「どうしてそんなことが気になるのかな?」と思うことまで様々なご意見をたくさんいただきました。インターネット上の情報とは質の異なる、一つの勉強会でオンラインではありますがお顔を拝見し、リアルな体温を感じるご意見に大いに刺激をいただきました。
<小川町・横田農園さんのお話し>
「世界一やさしいフードロス勉強会」は二部構成。私がお話しさせていただいたのが一部。第二部の埼玉県小川町・横田農園さんの会は、「ワクワクワーク」さんのキッチンにてお話しを伺いました。
横田さんのお話しは、一言で言えば「洗練」。生産現場の体験を論理的にまとめられて分かりやすく、聞いていて清々しい気持ちになりました。
その一部の溝口メモです
- 食品だけでなく、何を<ロス>とするか
- 独立栄養生物(植物)と従属栄養生物(動物)の循環
- 規格外は「作る」と「食べる」のギャップからできた
(農家側が離れることを良しとした、という言葉に元々の農家さんには一生かかっても追いつけない体験してきたことの差を感じました) - 認証は信頼の中継(近ければ要らない)
- 人は近づくものを気にするけど、離れるものは気にしない
- 循環の中の通過点の意識
- 有機の資源(種、肥料)はどこから来て、何をもって有機と言えるのか
中でも印象的だったのが、参加者からの質問「食品ロスにあたり、消費者が気をつけることは」の答えでした。
物事を判断するときに、情緒的過ぎないこと
科学視点でものを見る力をつけること
う〜ん。自分を中心に、好きなもの心地よいものを情緒的に選ぶのはとても楽しいですが、それだけでは現実的な問題は解決に向かわないですよね。
消費の主役である女性にとって情緒的過ぎないことは、少々骨の折れることかもしれません。それでも、自分を通過点として、循環の中で何を選択していくのかに少しでも意識が働けば、現実を変える大きな原動力になると可能性を感じました。
<まとめ>
食品ロスというテーマに向き合っていく中で、すでにある食糧廃棄の対処療法(残さず食べよう、余剰野菜をがんばって売ろう)をやりつつ、その根本原因を探っていく必要性を強く感じました。
農家のやることは生産者としての責任は持ちつつも、自分で全てをやろうしないで、理解の上で協力しあえる関係を新しく求めて行動することが大切。
協力を得るために
・自身の食品ロスの現状
・自身の食品ロスに対する取り組み
この二つを、わかりやすくて説明できるから始めていこうと思いました。
貴重な学びの機会を作ってくださったワクワクワーク代表ののなさん、企画運営チームの皆さま、勉強会にご参加いただきました皆さま、横田さん、本当にありがとうございました!